バチュ

近所の寂れた公園に野良タブンネが住み着き、巣を作ってタマゴを産んでいるらしい
しかも数え切れないほど大量に… これじゃあ来年の春にはご近所中タブンネだらけになってしまう
この分だと鳴き声や生ごみあさりの被害が酷い事になるのはすぐに想像がつく
ここはいっちょ趣味とボランティアを兼ねて駆除してやるとするか!
公園に向かって歩き出してると、途中で泣いている女の子がいた
話を聞いてみると、飼ってるデンチュラが沢山のタマゴ産んで困っているということだ
餌代とかが足りなくて飼えないのか?と聞いてみたが違っていて
「バチュルたちが生まれたらデンチュラとお別れしなければならない」と教えてくれた
卵が孵ると別れなきゃならない・・・? そう聞いただけではいまいち話が見えてこなかったが
詳しく訳を聞いてみるとその理由は世にも恐ろしい物だった・・・
まさかデンチュラにそんな習性があったとは
当のデンチュラは自分の運命を受け入れ、たくさんの野球ボールほどの大きさの小さな卵を6本の足で優しく抱いて守っている
なんとか助けてあげたいがまずはタブンネの駆除を… そうだ!いい事を思いついた

孵化予定日は明日だと言うので、その女の子とデンチュラとそのタマゴたちを連れて公園に行くことにした
まずはタブンネの巣を見つけることだ、荒れている公園の中でも一層、雑草が伸びほうだいな一角にピンクの塊が
これが例のタブンネのようだ。
人に飼われていたのかあまり警戒心が無く、枯れ草を適当に積み上げたベッドの上で10個ほどのタマゴと共に眠っていた
俺達が近づくと眠ったまま耳をパタ、パタ、と動かした、一応は聴覚でもって俺たちの存在に気づいてはいるらしい
巣の周辺にはこんもりと盛られた枯れ草の山がいくつもある、崩してみたら4個のたまごが出てきた
どうやらあまりに大量に産んだためこうやって隠しておいたらしい。山は見えるだけで15仔もある 
オーダイルなんかの枯れ草の山の中にタマゴを隠し、
腐る時に出る熱でタマゴを暖めると聞くがこの藁山も同じような作りであった
たぶん偶然ぞうなったんだろう、このバカそうなタブンネがそこまで考えて作っていたとは思えん
…もし全部孵ったら大変なチィチィ騒音になるぞ。
だが俺達がそんな事はさせないぜ、巣の間近に似たような枯れ草の山を3つほど作り、そこにデンチュラのタマゴを隠しておく
「ミィ!」
しまった、タブンネが起きてしまった。不本意だがここは穏便にパンの耳を渡して和解しておこう
「ミィミィ~~~♪」ペチャペチャクチャ
これで警戒は解いてくれたな。
「ミッミッミッ!」クイクイ
1本食い終わるともっとよこせ!と服の裾を引っ張ってせがんできた、なんとずうずうしい奴だ
ビニール袋一袋分食わせてもう無いとわかると残念そうな顔をして巣に戻りまた眠ってしまった
どうやらタマゴ塚が増えているのには気が付いていないようだ。産み過ぎるからだバカモノ
女の子はデンチュラと一緒に公園で寝袋で野宿して無事に生まれるか監視すると言っていた。
優しいトレーナーさんでよかったなぁ・・・ さて明日が楽しみだ


次の日
公園に様子を見に行ってみると相変わらずタブンネは寝ていた
赤ちゃんタブンネが生まれるか生まれないかの瀬戸際、巣を離れられないのは判るが少し無防備すぎるだろ
「・・・ミィ!」
タブンネがいきなりガバッと飛び起きた。そして枯れ草の山の一つにトコトコと駆け寄り、バサバサと山を崩しだした
俺には何も聞こえなかったがタブンネにはタマゴが割れるかすかな音が聞こえたのだ
「ムッキュ!」 「ミ、ミィ?」
しかし藁山から出てきたのはバチュル、俺たちが作った藁山だったのだ
バチュルと対面したタブンネは困惑していた、
自分と同じ姿のわが子が生まれてくると思ったのにまさか黄色い虫が出てくるとは思ってもみなかっただろう
「ムキュ~」「ムキュ」「キュウウ!」「ピキュウン!」…
「ミ、ミィィ・・・」
藁山の中から産声をあげながらたくさんのバチュルたちががワラワラと出てきた、
…どう見ても50匹以上はいるぞ、虫の中では可愛い方とはいえこんなにいるとすこし怖いぞ
「チュ!」「チュ!」「チュウ!」「キュウン」…
「ミッ!!?ミ、ミギュッ?」
オロオロしているするタブンネにワラワラと群がるバチュルたち。
足から登っていき背中やお腹に何匹もくっ付いている
バチュルの恐るべき習性が今、タブンネに対して現れようとしているのだ
「ムキュッ!ムキュッ!ムキュッ!ムキュッ!ムキュッ!ムキュッ!ムキュッ!ムキュッ!」カプカプカプカプ
「ミフィャァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
バチュルは張り付いたままタブンネの腹や肉に食いついていく
消化液で肉を溶かし、ドロドロになった肉をチュウチュウと啜っていく
そう、バチュルの恐ろしい習性とは「生まれてすぐに目の前に居る母親をエサにする」というものなのだ
そのとき母親のバチュルやデンチュラは何の抵抗もせず、じっと動かずにわが子に食べられていく
残酷に思えても虫ポケモンなりの愛情なのだろう…
「み゛ぃぃぃぃ!!!」ブン!ブンッ!
タブンネは身を溶かされる痛みに苦しみながら身体をぶんぶん振ってバチュルをなんとか振り払おうとする
身体に付いたバチュルを叩き落とそうと手を上げたその時…
「デンチュラ!でんきショックよ!」
デンチュラから放たれた一筋の電光がタブンネの背中にバチンと当たり、カッと一瞬光を放ち、そしてモワモワと黒煙が上がる
「ミ、ミ・・・イ・・・」
高く掲げられた手が糸が切れたようにダラリと下がり、タブンネはそのまま膝から崩れ落ちて行った
そうか、さっきのでんきショックで背骨の神経を焼き切ったのか。複眼での命中精度があればこんな芸当も可能なんだな
「ムキュッ!ムキュッ!ムキュッ!ムキュッ!ムキュッ!ムキュッ!ムキュッ!ムキュッ!」ゾワゾワゾワ…
「ミッミ!!?ヒィッ!!ミッミッミミミミミキキキキキキキヒャアアアアアアアアアーーーー!!!!」
動けなくなったタブンネにバチュル達はゾワゾワと群がり、ピンクの身体を黄色い塊と化していく
そしてタブンネは身体が見えなくなるほどびっちりとバチュルに群がられてしまった
まさにハ○ナプトラ状態、虫嫌いの人にはトラウマものだ
バチュル達の初めてのお食事は数十分も続いた。その間タブンネは叫びっぱなしで
最後には可愛らしかった声もすっかりかすれてハスキーボイスに変わってしまっていた
「フィ…」
食事が終わり、バチュル達が離れてなおタブンネはまだその命を保っていた
しかし全身の皮と一部の筋肉が溶けてケロイド状態、顔面は目や唇も溶かされてしまい所々白い骨が覗いている
ゾンビと言えば誰もが納得するであろうほどの醜悪な姿になってしまっていた
こいつ特性が再生力じゃないらしい、運が悪かったなw

バチュル達をデンチュラを失うことなく孵化させる事に成功した女の子は俺にありがとうと礼を言い、帰って行った
さて次はベビタブンネの後始末か・・・ のはずだがその必要はない、
母タブンネがあんな状態ではまともに育つはずがないからだ。何もしなくても勝手に飢えて死ぬ
まあオモチャ用に何匹かお持ち帰りはするがなw  ・・・ん?枯れ草の山が一斉にカサカサと鳴りだしたぞ
「チィー!チィー!」「フィィ・・・」
お、どうやらタマゴから赤ちゃんタブンネが孵ったようだ。必死に鳴いて母親を呼ぶが当の母親はドロドロのボロボロだ
乳腺も食われちまってるだろうからお乳をあげるなんて到底不可能だろうなw
母タブンネの変な液体が混じった涙を見届けた後、赤ちゃんタブンネたちのセルフレクイエムを背に俺は家に戻った
オモチャ用のベビタブンネをパンの耳が入っていたビニール袋にいっぱい詰め込んで


1週間後、公園にどうなったか見に行ってみるとタブンネがいた場所に大きなピンクの塊があった
何かと思って近くで見てみるとミイラ化した赤ちゃんタブンネの死体が母タブンネの死体にびっしりと纏わりついているという物だった
母タブンネの死体は白骨化が始まっていたが、歯が不自然にバキバキにひび割れている
きっと悔しくて悔しくて、自分の歯を噛みつぶすほどに歯を食いしばっていたんだろうなw

ところで、あのあとお礼にとバチュルを一匹貰ったんだが、特性は「きんちょうかん」だった
実を言うと複眼のほうが良かったのだがこいつはこいつで面白い遊びかたがある

「あらら~タブンネちゃん、きょうもごはん食べなかったの~? いいかげん食べないと死んじゃうよ~w」
「ミィィ…ミィ…」
「ムキュ!ムキュ!」
拾ってきた赤ちゃんタブンネを食事させるときは必ずバチュルが同席となる、餌は大好物の完熟オボンの実
バチュルのせいでタブンネちゃんはどんなにお腹が減っていても恐怖で震えて実に手を着ける事が出来ない
木の実が入った皿を取り上げる時のベビタブンネの表情ったらもう爆笑モノw
このベビタブンネは断食10日目、いいかげん恐怖に打ち勝つ勇者タブンネが出てきて欲しいもんだなw

終わり
最終更新:2014年09月20日 00:25