あるタブンネさんの受難4

「これでよし、と」

あるトレーナーが自宅で自分のポケモンたちにアクセサリをつけ終える
着飾りの終えたポケモン達はどこか嬉しそうだ
白をベースとした人に近い姿をしたポケモン、サーナイトはその隣にいる薄紫色をした愛らしいポケモン、エーフィをぎゅっと抱き寄せる
二匹とも通常のサーナイトやエーフィに比べ毛並みや体つきもよく、トレーナーの日ごろの努力が垣間見れる
エーフィは体をくねらせサーナイトから解放されると、鏡の前で愛嬌のあるポーズを取り出した
実はこの二匹は今日ライモンのミュージカルに出場する予定なのだ
幾度か出場経験があるサーナイトは初めてで緊張しているエーフィを見て微笑んでいる
トレーナーはCギアを見て時間を確認する、そろそろ時間のようだ
サーナイトとエーフィに声をかけ、トレーナー達は家を後にした

ライモンの外れに住んでいるトレーナーは草むらをいくつか通らないとライモンへはいけない
草むらに入る前に入念にスプレーをかけて野生のポケモンに出会わないようにし、草むらを通っていく
そんなトレーナーを遠くから不思議そうに見ているポケモンが居た
そのポケモンはガサガサと草むらを揺らし、トレーナーの方に近づく
そしてトレーナーと目が合わさった、ピンク色の寸胴体系のポケモン、タブンネだ
タブンネはトレーナーを見るとにへらっっと緊張感のない笑みを浮かべ挨拶をする

──こんにちは!はじめまして──

野生ポケモンと極力関わり合いになりたくないトレーナーはサーナイトとエーフィを連れタブンネを無視し、正面突破を試みた
迂回するとスプレーが足りなくなるからだ、いちいち時間をかけてる暇はないと判断したトレーナーとポケモン達はタブンネの横を素通りしようとした
しかしそううまくいかなかったようだ、タブンネは後ろから気配を隠すつもりもなく鳴きながら付いてくる
さらに無視すると、タブンネ今度はトレーナーのズボンの裾をひっぱった

──ねぇねぇトレーナーさん、私と遊びましょ──

どこまでも警戒心の薄く、なれなれしいタブンネにトレーナーは苛立ちを感じ始めていた
エーフィとサーナイトはそのトレーナーの様子を不安げに見つめている
見つめられているのをわかったトレーナーは心配をかけまいと無理に笑顔を作り、また歩き始めた

タブンネは自分に気づいていないのでは、と思いトレーナーに突進を繰り出した
背後から肉の塊の突進を受けてトレーナーは思わず前のめりに倒れる
自分のポケモンがミュージカルにでるのだからと多少着飾った服が泥まみれだ
エーフィとサーナイトはトレーナーに近づき気遣う
トレーナーは何とか大丈夫と言ったようにサーナイトに手を借りて立ち上がった
タブンネは遊んでいるつもりだったのだろう、トレーナー達に先ほどの気の抜けた笑顔を向ける
緊張感のかけらもなくこちらに歩み寄ってくるタブンネにトレーナーはもちろんのことエーフィもサーナイトも怒りが爆発寸前だった
サーナイトはトレーナーにいやしのはどうをし、傷口を治した後泥を払う
エーフィは怒りで我を忘れてタブンネに攻撃を開始した
まず手始めにエーフィは念力による球体を作りだし、そしてそれをタブンネにぶつけた
精度の高いサイコショックはタブンネに決して悪くないダメージを与える
腹部にサイコショックを喰らったタブンネはその場に跪き、腹部を抑え苦しみ始めた

──お腹痛いよ、どうしてこんなことするの‥‥?──

タブンネは涙目になりながらエーフィに訴える
エーフィは聞く耳持たずと言った風に今度は瞑想を始めた
その姿を見たタブンネは腹部を抑えながらも立ち上がり、そしてノロノロと逃げ始めた
まるでナットレイのような遅さで逃げるタブンネ、そんなタブンネにエーフィが一瞬で追いつくのは明らかだった
瞑想を終えたエーフィは軽快な身のこなしでタブンネの前に入り込み、タブンネを睨みつける
急に脇からエーフィが現れタブンネはその場にへたり込む
エーフィはそのまま再び先ほどより少し大きくなった念力の球体をタブンネに放った
サイコショックはタブンネの鳩尾に当たり、破裂する
タブンネはトレーナーとサーナイトが居る方へ大きく吹き飛ばされた

鳩尾を強打されたのと背面を強く地面に打ち付けたのとでタブンネは胃液のようなものを吐きだす
そして薄らと目をあけるとそこには怒髪天を衝く程に怒っているトレーナーと
瞑想で極限まで精神を研ぎ澄ませたサーナイトが居た
その姿を見てタブンネは歯をガチガチと鳴らし、恐怖する
胃液まみれの口元を拭くこともなく、トレーナーとサーナイトの方に向き直り命乞いを始めた
その顔を恐怖一色に染め上げてタブンネは助かりたい一心でミィミィと鳴き続ける

──ごめんなさい!ごめんなさい!命だけは助けてください!!──

サーナイトはその言葉を理解し、そしてトレーナーに伝える、シンクロによる意思疎通はエスパータイプの十八番である
トレーナーはその旨を理解すると、サーナイトに命は奪うな、と指示し、そしてそれをあのタブンネに伝えるように言った
サーナイトはタブンネにそういう風にテレパシーを送ると、タブンネは先ほどとは一変歓喜の表情に変わった

──ありがとうございます!ありがとうございます!──

タブンネは涙や鼻水を垂れ流しながら鳴き続ける、その姿はあまりにも醜悪だった
サーナイトはタブンネに微笑みかけると手を宙にかざし、力を一点に集中させ始めた
膨大な力の塊はその周囲に突風を巻き起こす
異常を察知した周囲のポケモン達はすぐさま尻尾を巻いて離れていった
タブンネは一瞬あぜんとしたが、すぐさま理解した
感じ取ったのだ、トレーナーとサーナイトのこれ以上ない悪意を
涙を流し鼻水を垂らしながらタブンネは近づいてくる力の塊を見つめる
その顔はやはり、絶望に歪んでいた

力の塊が当たったタブンネはまず最初に全身をミンチにされた
大きな力はタブンネの肉という肉をズタズタに引き裂き、吹き飛ばす
全身の肉が吹き飛ぶのはものの数秒だったが、タブンネにとっては何時間にも長く感じられていた
次いで行われたのは内臓の機能を最低限残したまま傷つけることだ
内臓自体に痛覚はないが、心臓や肝臓、胃などありとあらゆる内臓が傷つけられ、そのたびにタブンネは苦しんだ
もはやその時点では叫び声をあげることすらできなかった
力の塊が終息するとタブンネだった肉塊はその場にどちゃりと崩れ落ちた
何より恐ろしいのは気道は確保され、心臓や肺等の臓器と血管はその形を保ち、活動をやめていないのに対し
全身の肉はズタズタに刻まれ目は抉られ嗅覚聴覚はもはやその形を保っていなかったことだ
全てを外界から隔離されたタブンネは、そのまま餓死するまでの長い時間をここで、過ごすことしかできなかった
自慢の再生力も細胞そのものを死滅させられているので意味をなしていなかった

「ごめんなエーフィ、サーナイト」

トレーナーは満足したのか、サーナイトとエーフィに謝罪の言葉を発し、その場を後にする
時間もかかり、何よりこのような格好では参加できないと判断したトレーナーは今日のミュージカルの出場を断念するようだ
エーフィは頭を振る、気にするなと言っているようだ
トレーナー達は本意ではなかったが、しかしそれでも幸せそうに帰路についた

──暗いよ‥‥何も見えないよ‥‥助けて‥‥助けて‥‥──

その場には、ただただ誰にでもなく助けを求めるだけの哀れな肉塊だけが残った
最終更新:2014年10月22日 14:22