正宗敦夫「古字書索引序」

長島豊太郎君と私とは、長い年月を日本古典全集の編纂出版の為に苦労を共にして来た。此の事業もまだやめる積では無かったが大東亜戦は自然に中止させてしまった。長島君は田舎へ疎開せられるやうになり、刊行の仕事に従事してゐられた令息が軍に召集せられ、ついで死亡せられるやうな事も出来て、君も私も何とも仕方なく成った。然し長島君は其の悲痛悶悶やる方なき心の持って行き場をもとめて、古字書索引編纂と云ふ事業に向はれた。昭和十八年四月より筆を執りそめて十五年五月に編纂を了せられ、其から清書に取りかかられて来る三十三年の晩夏頃には清書を了せられる豫定に成ってゐる。是れは大した事業に成功せられたもので有る。私は其の事の通信を先程受けて実に驚歎した。私が生活に喘ぎつつ何一つまとまった仕事も出来ないでゐる内に君は驚くべき仕事を仕上げられてゐる。殊に君は書に巧であるから、斯る仕事を完成せらるるには鬼に鉄棒で、編輯せられた原稿を自から見事に清書して出版せらるるに都合がよい。私が古典全集で類聚名義鈔索引など君の手をかりて刊行したのが有るが、君は自から編輯せられ、其れを立派に清書せられて世に公にせられんとする。其の苦心は大変なもので有ったらうが、然し又共楽しみも無限で有らう。かくて君は悲を転じて自からなぐさみつつ学界に大なる功徳を積まれた事を、此上もない喜びであると私は讃歎したい
  昭和三十二年九月朔日                  正宗敦夫

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最終更新:2016年02月29日 00:56