臨海 日常 雀荘へ

特に用事はないが、折角の休日を寝て曜日で過ごすこともないだろう。

行き先も決めないままに、京太郎は気の向くままに近所を散歩することにした。


「……ん?」


京太郎の足を引き止めたのは、雀荘の看板。

これでも麻雀部の端くれ、少しだけ興味が湧いてきた。

利用料金もそこまで高いものではない。


「よし、ちょっと行ってみるかな」


臨海の麻雀部のメンバーが強豪揃いなのは、ほぼ初心者の京太郎にもわかる。

ならばこういった場所で打つ人は、どれだけの実力を持っているのだろうか。

 

京太郎と卓を囲むキャラ、下3まででー

 

 

店員曰く、ちょうど後一人席が空いている卓があるとのこと。

ネト麻以外で知らない相手と打つのは初めてだが、もしかしたら自分と同じような感覚で来店した客もいるかもしれない。

雲良くお零れが拾えたら、程度のつもりで京太郎が向かった先には――


テルー判定直下
1~30 ……どこかで、会ったような?
31~60 京……ちゃん?
61~98 久しぶり、だね
ゾロ目 ???


あわあわ判定下2
1~30 はやくやろうよー
31~60 ちょっとイケメンかも……なーんて
61~98 ねね、LINEやってる?


うたさん判定下3
1~30 悪いことは言わないから、帰った方がいいかもよ?
31~60 んー……ま、お手並み拝見、かな
61~98 さてさて……ちーっとばかし、面白くなってきたかね?

 

 

案内された卓。

京太郎の真向かいに座る少女と目が合った瞬間に浮かべた表情は、恐らく互いに殆ど同じだっただろう。


「京……ちゃん?」

「照……さん、ですよね?」


まさか、こんな雀荘で昔の知り合いに遭遇するとは重いも寄らなかったのだから。

その反応に食いついてきたのは、照の隣の長い金髪の少女。


「ねね、知り合いなの?」

「知り合い……というか」


興味津々といった風に京太郎を見つめる少女。

キラキラした視線の眩しさには戸惑いを隠せない。


「ねね、LINEやってる?」

「ああ、やってる……けど」


逆ナン、というヤツだろうか。こんな場所で。


「――悪いことは言わないから、帰った方がいいかもよ?」


独特の空気に包まれつつあった卓の雰囲気を一変させたのは、和服を着た童女のような出で立ちの女性。

身長はこの中の誰よりも低く、一見年下のようにも見えるが――底知れぬとでも言うのか、彼女に見つめられた瞬間に背筋に冷たいものが走った。


「……やってみなけりゃ、わかんねえよ」

「ほー? 言うねえ」


それでも言い返せたのは、男子としての意地。

照に情けないところを見せたくない、というのもあるかもしれない。


「……そいじゃ、始めようかい」


サイが、投げられた。


京太郎対局判定直下
66 3位
88 2位
00 まさかの1位

 

「ほら、言わんこっちゃない」

「……っ!」


和服を着た女性の言う通り――結果は、無残なもの。

言い返すことも、できない。


「ま、にーちゃんには此処はまだ早かったねぃ。オムツが取れたらまたおいで」


ま、知らんけど。

そう言い残して、彼女はさっさと出て行ってしまった。


「……」


恥ずかしのか、悔しいのか。

見栄を切っておきながら、結果は惨敗。

自分は初心者なのだから、と言い訳をするのは情けない。


「……大丈夫、だよ」


思わず握った拳に添えられたのは、白い指。


「情けない、なんて思わないから」


格好つかない自分を、照は励ましてくれているようだった。

 

「……そうそう! あんなヤツ、私がコテンパンにしてやるから!」


何故だか自信満々の金髪少女。

 

「……いや、お前も3位じゃん」

「いいの、次は100回倒すから」

「……ははっ」


その自信はどこから、と突っ込みたくなったが、彼女なりの強がりなのかもしれない。


「……」


ボロボロに負けて、再会した幼馴染の姉には慰められて。


「……」


ひっくり返っても、お世辞にも格好良いとは言えない。


「……そう、ですよね」

「京ちゃん?」

「……次は」


それでも。


「次は――もっと、やれますから」


火が着いたものは、あった。

 

 
 
 
最終更新:2015年01月27日 02:05