本戦SSその2

5月6日、深夜。ゴールデンウィークの最終日である。
そんな時期の、そんな時間に学校にいる者などほとんどいるはずもないが、今、希望崎学園の校舎には8人の人間が忍んでいた。
彼らは息を殺しながら校舎を出て行く。向かう先は希望崎学園のシンボルである希望の泉・・・ではなく、購買部の施設である。
購買部はコンビニのような外見であった。普通のコンビニと違うのは深夜には営業していないことであろう。辺りを照らすのは月明かりのみである。
購買部の入り口あたりには監視カメラが設置されている。希望崎の治安はおせじにもいいとは言えず、堂々と商品を大量に置いておいては盗まれかねない。その対策のためである。
8人のうちの一人であるスキンヘッドの男が、監視カメラに向かって手を向けた。すると、不思議なことに勢いよく腕が伸びていき、監視カメラを掴んで壊してしまった。次の瞬間、男の手は元の長さに戻った。
8人はコンビニに近づく。金髪の男がポケットからドライバーを取り出し窓ガラスの端側に打ち付けひびを入れる。もう一か所にもドライバーを打ち付けてひびを入れ、こじるような動作でそのひびを広げ、先程入れたひびにつながるようにした。金髪の男がガラスを押すと三角状に切れたガラスが室内側に倒れる。金髪の男は慎重な動作でガラスを取り出した後、スキンヘッドの男に店内の監視カメラを破壊するよう指示する。スキンヘッドの男は割れたガラスの隙間から腕を入れ、店内の監視カメラに向かって手を伸ばし二つとも壊してしまった。最後に内側から鍵を開け、8人が店内に侵入する。
金髪の男がレジへ向かい、床に不自然に設置されているボタンを押すと、床が開き梯子が出現した。
「皆、見取り図は持っているか?」
金髪の男が聞く。残りの7人は頷き、紙を取り出した。紙にはこの店の地下の地図が描かれていた。
金髪の男を先頭に、一同は梯子で地下へ向かった。8人の目的はただ一つ、伝説の焼きそばパンの奪取であった・・・。

半日前
金髪の男、臥間 掏児は購買部のユニフォームを着て陳列棚の整理をしていた。彼は購買部に忍び込むことで購買部の情報を得て伝説の焼きそばパンを盗む計画を立てていたのだ。伝説の焼きそばパンは先程入荷され、現在は地下の倉庫のある場所に保管されている。今は人目があるため不可能だが、深夜になれば奪いに行くチャンスが生まれる。それまでは正体がバレてはいけない。
「いらっしゃいませー!」
店内に店員の声が響く。客が来たらしい。ゴールデンウィークではあるが学校に来る生徒はそこそこいる。
客はポニーテールの健康的な見た目の女学生であった。女学生は食品コーナーからおにぎりやパンをどんどん手に取っていった。アレ全部一人で食べるつもりだろうか?掏児は訝しむ。
女学生は商品を抱えながらきょろきょろしている。何か探しているようだ。見つからなかったのか、掏児に聞きに来た。
「すいませーん、タコス無いっすか?」
「タコス?ああ、倉庫に置いてあるよ。取ってくる」
倉庫へ向かう掏児。それを女学生は、何故か不審そうな目で見ていた。
「おまたせしました」
「ありがとうございます・・・あの・・・」
「ん?どうしました?」
「お宅、もしかして・・・購買部の人・・・じゃないっすよね?」
掏児の心臓が飛び跳ねる。なぜわかった?ぼろは出してないはず。頭の中がぐるぐる回る。
「い、いえそんなことはありませんが・・・」
「私、調達部員ですから購買部の人とよく会うんですけどお宅と会ったこと一回もないんすよね」
「た、たまたま会わなかっただけでは・・・?」
「それにお宅、購買部員なのにアレ、つけてないっすよね?」
アレ?アレとはなんだ?そう思って店内にいるもう一人の店員を見る。
「ほら、あの人胸にバッジつけてるっすよね?購買部員はアレつけてなきゃいけないんすよ?」
掏児は絶句する。購買部については事前にリサーチをしたはずだが、こんなところでぼろを出すとは。
「な、なあ頼む。バラさないでくれ・・・」
「いいっすよ」
「え?」
「ただ、条件があるっす。一時間後に調達部の部室まで来てほしいっす」
いたずらっぽく微笑んで、女学生は購買部を後にした。
30分後。
「結構早く来たっすね」
「なあ、バラさないでくれよ」
「大丈夫っすよ」
女学生がフフフと笑う。
「あ、そういえばあの、店員がバッジを胸につけてなきゃいけないっていうの、嘘っすから」
「は?」
「ちょっと鎌かけてみたんすよ。アレはあの店員のファッションっす。で、なんで購買部に忍び込んでたんすか?・・・もしかして、伝説の焼きそばパンのため?」
「あ・・・ああ、その通りだ。情報を集めてやろうと思ってな」
「ということは、購買部の見取り図なんかも?」
少し逡巡した後に、掏児は懐から紙を取り出す。購買部の店内、それから地下倉庫の見取り図だ。
「へぇ、地下倉庫の地図まで持ってるんすか。購買部員でもその全容を知っている人はそういないって聞くっすけど?」
「盗んだんだよ、購買部の重役らしいやつからな」
掏児が淡々と言う。
「今、伝説の焼きそばパンは地下倉庫の、店長の部屋の金庫に保管されている。今夜忍び込んで盗んでやろうと思ったんだがな」
「ふむ・・・」
女学生は感心する。購買部は商売することが目的であるため、セキュリティには大いに力を入れている。この男はその購買部に侵入し、あまつさえ重要な情報まで盗み出したのだ。単純な嘘に引っかかるような間抜けさもあるが、能力はあると評価できるだろう。
女学生は話を切り出す。
「その計画っすけど・・・手伝ってあげるっすか?」
「え?」
「全力で協力するっす。盗みに役立ちそうな魔人も揃えるっすよ?」
「それは助かるが・・・なんで協力してくれるんだ?」
「私も欲しいんすよ、伝説の焼きそばパンが」
女学生―――舟行 呉葉は嘘をついた。そもそも伝説の焼きそばパンを調達したのは彼女である。いや、調達したことになっているのだが、実際にはきしめんを加工して作り上げた伝説の焼きそばパン「もどき」を調達してしまったのである。もしこのことが明るみに出てしまえば調達部の信用問題につながる。部費は減らされるし、もちろん彼女自身の処罰も免れられない。
呉葉はそんなことなどはおくびにも出さず、ニコリとほほ笑む。
「お宅の目的はなんなんすか?」
「俺の目的は・・・金だ。伝説の焼きそばパンは高く売れるからな」
(ってことは、ある意味では私と同じ目的ってことっすね)呉葉は心中で苦笑する。
「私の名前は舟行 呉葉っていうっす。ひとまず購買部で得た情報について教えてくれるっすか?」
「臥間 掏児だ。そうだな・・・・・とりあえず店長には気を付けておいたほうがいい」
掏児が一拍置いて、慎重な面持ちで言う。
「購買部の店長、玉木令示。奴は、プロの万引きGメンだからな」


今、購買部のはしごを8人の魔人が下っていた。臥間 掏児と舟行 呉葉、それから住吉弥太郎、千倉 季紗季、パン崎努、兵動 惣佳、冬頭美麗、闇雲
希の8人である。先程腕を伸ばして監視カメラを壊していたのはパン崎努である。彼は魔人能力で腕を伸ばすことができるのだ。窓ガラスを三角割してみせたのは金髪の男、臥間
掏児である。彼は経験上、盗みの能力を持っていた。
彼らが向かっているのは希望崎の地下に存在するダンジョンの跡地である。
希望崎の番長小屋の地下にダンジョンが存在しているというのは恐らく周知の事実であろう。ここ購買部の地下にもダンジョンがあったのだが、そのうち一階は完全に制覇されつくし、購買部の倉庫として利用されていた。。
梯子を降り切った後、彼らは地図を見た。地下倉庫の全体図に加え、ところどころに丸が付けられている。監視カメラの設置場所である。さらに伝説の焼きそばパンが保管されている店長の部屋の場所も書かれている。
その部屋に坐する購買部の店長、玉木令示は魔人能力によって監視カメラに映された映像を眼球を通して見ることができる。能力対象の監視カメラの映像すべてが複眼のような形で眼球に表れるのだ。これにより玉木は部屋にいながら、たった一人で購買部の防犯ができる。
いや、それだけではない。監視カメラを通して玉木に見られた犯罪者は、それだけで即座に行動不能になってしまうのだ。犯罪者というのは万引きや痴漢など、玉木が犯罪であると認識した行為を行った者のことを指す。つまり今夜、購買部に忍び込んだ者は全員監視カメラに映るだけで行動不能になってしまうのだ。玉木はこの能力を『現行犯逮捕』と呼んでいる。
だが、今8人の手元にはその監視カメラの位置が記された地図がある。その場所を避けて通りさえすれば、時間はかかるが無事店長の部屋につく。
「加えて私たちは魔人っす。だからこんな型破りのことも・・・」
呉葉が語りながら包丁を地下倉庫の土壁に向かって構え、振る。壁は一瞬で細切れになって崩れ、人の通れそうな通路ができあがる。
「できるっす!」
彼女の魔人能力『C・C・C(カット・コーナーズ・クッキング)』は彼女が食材と認識したものに向かって包丁を振るだけで好きな大きさで、等分に刻むことのできる能力である。
ちょっとまて、土壁は食材には入らないだろうとお思いだろうか?いや、実は土は食材として利用できるのだ。
そもそも植物が土から生えてくるのは何故だろうか?それは土に栄養があるからだ。食べても安全な野菜は、食べても安全な土があってこそできあがるのである。東京のとあるフレンチレストランでは土を使ったフルコースを楽しめるらしい。読者諸君も一度味わってみてはいかがだろうか?
呉葉を先頭に、8人は通路を通り抜ける。最後尾は千倉 季紗季である。彼女は腹にハリガネムシを飼っている。
(ドキドキするね、ハリガネムシくん)
((あの引っ込み思案な季紗季が盗みを働くとはねぇ。図太くなったもんだよ))
(もう!どうしても伝説の焼きそばパンを食べたいって言ったのはハリガネムシくんでしょ!)
((まあ、絶対に捕まらないようちゃんと手伝うからね。捕まったら・・・わかってるよね?))
(・・・うん、それだけは嫌だからね)
季紗季がハリガネムシと会話を交わしている。このハリガネムシは季紗季の魔人能力によって生まれた魔人ハリガネムシである。季紗季とはとても仲が良いらしい。
前方では呉葉が壁をどんどん壊している。
「この調子でいけばすぐに店長の部屋につくんじゃあないか?」
呉葉の後ろにいたアフロ男、住吉弥太郎が言う。
「どうっすかね?あの店長のことだからそう一筋縄ではいかないと思うっすけど・・・あ、曲がるっすよ」
呉葉が左の道に入る。
「そういえば住吉君はなんで伝説の焼きそばパンが欲しいんすか?」
「伝説のたこ焼きと交換してもらえるからだ」
「え、なんすかそれ・・・」
「まあ、8人で盗みに入ってるから焼きそばパンも8等分することになるので、たこ焼きも8分の一しかもらえんかもしれんがな・・・お前こそなんで伝説の焼きそばパンを欲しがってるんだ?焼きそばパンを調達したのは調達部のお前だろ?だったらいつでも横取りできたはず・・・」
「あー・・・まあ、いろいろ都合があるんすよ、いろいろ!」
痛いことを聞かれたとばかりに呉葉はお茶を濁し、素早く曲がり角を右に曲がった。
そして、呉葉は意識を失い倒れた。
「!?」
住吉は驚愕する。呉葉の反応は購買部店長の玉木の能力にかかった時のそれである。だが、地図を見ても曲がり角の先に監視カメラはない。
後ろの角でも誰かが倒れる。倒れたのは冬頭美麗である。彼女は後ろから二番目の位置にいた。
「自走型監視カメラです!」
千倉 季紗季が叫ぶ。
「後ろの方から・・・監視カメラに追われています!」
そう、舟行 呉葉 と冬頭美麗は自走型監視カメラを通して玉木に見られたために行動不能になってしまったのだ。
では、最後尾であった千倉 季紗季は何故行動不能になっていないのか?何故監視カメラを認識しながら監視カメラに見られずにすんだのか?
それは彼女が腹に飼っているハリガネムシくんのおかげであった。ハリガネムシくんは季紗季の意識の圏外にある情報を認識している。例えば、人間は目に映った情報全てを認識できるだろうか?目の端に映った猫の姿や車など、普通そんなものは認識できない。ハリガネムシくんは季紗季の代わりにそれらを認識してくれるのだ。今、ハリガネムシくんは季紗季の目の端に映った監視カメラを認識し、監視カメラに映される前に横道に入ってくれたのである。季紗季とハリガネムシくんの友情の賜物と言えるだろう。
だが、ほとんど反射的な行動であったため、前方にいた冬頭美麗は助けられなかった。
そして、何よりも重大な問題がある。
「前と後ろとで挟まれちまったってことか・・・」
掏児が苦々しくつぶやく。そう、前の角から出ても後ろの角から出ても、監視カメラに見られてしまう。いや、あちらから迫っているのだからそのうち挟み撃ちにされて全員が行動不能になってしまうだろう。誰かこの状況を打開できる者はいるだろうか?
「それなら・・・俺に任せな!」
住吉が懐から携帯を取り出し、ピロリロリ♪とリズムよく番号を打った。すると前の通路に炎の鳥が現れ、通路全体を焼き払った!住吉弥太郎の魔人能力、『借りて来た不死鳥(ディメンジョン・フェニックス)』である!
「もう一発!みな伏せろ!」
住吉はもう一度ピロリロリ♪とリズムよく番号を打って後方に炎の鳥を出現させ、後ろの通路を焼き払わせる。
「どれ・・・」
住吉達が前の通路に踏み出す。右側を見ると、蛇のような形をした何か―――自走型監視カメラの残骸が、転がっていた。
「こんなものまで用意してたか・・・さすがはプロの万引きGメンってところか、クソッ」
「なあ、行動不能になったやつはどうする?」
「玉木の能力にかかったやつは少なくとも一日は動けなくなるらしい。悪いが、置いていくしかないだろう」
一同は苦々しい顔をする。盗みを働いて、捕まった者の末路。それは容易に想像できることだ。
申し訳ないと思いながら、6人は道を進む。壁を壊すことができなくなったため、長くなってしまった道を。

スキンヘッドの男、パン崎努は懊悩していた。
彼は異常なまでのパンツ好きである。だが、理性によってパンツを食べてしまいたいという欲求を何とか抑えているのだ。
先程、舟行 呉葉が倒れているのを見て、彼は衝撃を受けた。
そう、スカートがめくれてパンツが少し見えていたのである。
前を歩いていた臥間 掏児などはあからさまに目を向けて眼福眼福と口の端を緩めていたのだが、パン崎は努めて見ないようにしていた。見ないように見ないように・・・と思いながらチラチラ見てしまい深い罪悪感に襲われていた。その時彼の股間はいつにも増してエレクトしていた。
(見たって別にいいだろう?相手は気絶してるんだからさ)
(いやいやいやそれこそいけない!よりによって相手の意識が無い時に性的な目で見るなんて・・・最早レイプだ!人として最低の行為だ!)
(意識が無いからこそいいんだろう?今なら彼女からこっそりパンツを拝借してもバレないぜ・・・)
(やめろやめろ!治まれ!俺の煩悩!)
そう念じながらまたもチラリと見てしまう。パンツの皺の一つ一つと大胆にさらけ出された鼠蹊部と、腹直筋の線が健康的に表れているのを一瞬で脳内画像フォルダに記憶させ今日のズリネタにするぜヒャッホイ!というところまで考えたところでまたもや深い罪悪感に襲われ鬱屈としてしまう。股間は最早バーニングといった具合である。
加えて彼のすぐ後ろには一年女子の兵動惣佳が歩いていた。呉葉のパンツを見るまではなんとか抑えておけたのだが、今となっては自分のすぐ後ろに地味目後輩メガネっ娘パンツがあるという事実に最早耐え切れない。彼の頭の中では惣佳が自らの可愛らしいパンツを湯に数回くぐらせて、恥ずかしげにパン崎の口元まで運んでくれる・・・などといった妄想がぐるぐるしていた。これが本当のノーパンしゃぶしゃぶ!などと考えたところで死にたくなった。
(いや、本当になんとか煩悩を払わねば・・・今は盗みの最中だぞ・・・これに成功するまではパンツを食べてはいけない・・・)
パン崎は煩悩を晴らしてくれる何かを求めた。
・・・果たして、パン崎が祈ったせいかどうかはわからない。確かに、煩悩など晴らしてしまうような存在が現れた。
「おい・・・何だお前は」
住吉が言葉を放つ。住吉達の前方には男が仁王立ちしていた。メガネをかけたやせぎすの男が、その見た目にも似合わず堂々と立っていた。
「僕からすればお前たちこそ何者だ、といったところだね。なんでこんな時間に、こんなところにいるのかな?」
メガネの男が不敵な笑みを浮かべて語る。ずしり、ずしりと一歩一歩踏みしめながら歩き始めた。6人の盗人たちは思わず気圧される。
(これは・・・チャンスではないか?)
緊張が漂う中、パン崎は救われるような思いをした。今なら、あの男と戦闘することによって煩悩を晴らすことができる。パンツの匂いすら振り切ることができるはずだ。
パン崎が前方に出る。
「あっ馬鹿!」
盗人の一人、闇雲希が言葉を放つが、パン崎は聞かずに能力を発動させる。
「『Dad Rule. She Move(君は僕のおもちゃ)』!!!!!」
猛烈な勢いで拳がメガネの男の顔面に伸びていく!だが、メガネの男は軽い動作でその拳を掴んだ。
「防いだか!だがァ!」
パン崎が手の長さを元に戻す。戻る時は一瞬である。更に能力の特性上、触っていたものも一緒についてくるのでメガネの男もいっしょに目の前に現れた。
「死ねぇ!」
そのまま目の前の男を殴りつけようとする。ヨガによって鍛えられたパンチである。頭蓋骨も容易に粉砕することだろう。
だが、メガネの男が何かをパン崎につぶやいたことでパン崎の動きは止まってしまった。そう、何かを呟いただけである。
「・・・!?なんだ!?アイツは何をしたんだ!?」
住吉が驚く。
「俺ぁ生徒会会計役員食費担当だからアイツのことはよく知っていた・・・ただ、こんなところに現れるとは思わなかったがな」
闇雲は重々しい口調で語った。
「アイツは仕橋 王道。希望崎学園最強のパシリだ。」
メガネの男、仕橋 王道は再びゆっくりと近づき始めた。5人は気圧されて後ずさりする。
王道はいったい何をしたのであろうか?王道の能力、『Pa.Si.Ri』は「商品を確保し」「販売者に買う意思を伝える」ことで、購入を成立させる能力である。代金に関してはどこからともなく販売者に振り込まれるため払う必要は無い。
そう、彼はこの能力を利用して、パン崎からパン崎自身を購入したのである。現代において人身売買は違法かもしれない。だが、王道の魔人能力は法までも超越する。
この魔人能力は前提として、王道本人がパシリ行為のためと認識している買い物でなければ能力を発動させることはできないのだが、今、王道は伝説の焼きそばパンを買ってくるように命令されていて、盗人から伝説の焼きそばパンを守るために戦っている。
つまり王道は今、盗人達からなんでも買うことができるのだ。
「さあ、どうしますか?おめおめと逃げ帰りますか?それとも僕に、購入されてしまいますか?」
王道が挑発する。盗人たちはうろたえている。万事休すか。
いや今、盗人の一人が前に出た。千倉 季紗季である。
(・・・行くよハリガネムシくん)
((ああ、まかせろ))
季紗季は手に硬質化したハリガネムシくんを持っていた。
季紗季がハリガネムシくんを振るう。ハリガネムシくんがダンジョンの壁に当たると、そこに鋭い切り傷が残った。
「馬鹿野郎!武器を持ち出したって武器ごと王道に買われるだけだぞ!」
闇雲が叫ぶ。
いや、彼女は考え無しに前に出たわけではない。何故ならハリガネムシくんは季紗季の友達であって単なる所有物ではないからだ。
ならば、王道に買われるはずもない。
「どぉりゃぁあああ!!!!」
季紗季がハリガネムシくんを振るう。その斬撃の速度は速い。二発、三発。王道は間一髪で避ける。
「まだまだ!」
季紗季が再びハリガネムシくんを振るう・・・と、王道がハリガネムシくんをつかんだ。
「ふむ、面白い武器だな。これを買わせろ」
王道が言ったところで季紗季がハリガネムシくんを手放してしまう。
「・・・・・・っ!?」
そのまま王道はハリガネムシくんを季紗季の首に叩きつけて気絶させてしまう。季紗季は膝をついて、倒れた。
おお、何故季紗季はハリガネムシくんを売ってしまったのか?彼女とハリガネムシくんの友情は偽物だったというのか?
いや、彼女にとってハリガネムシくんとの友情は確かに本物であった。だが、そもそもハリガネムシくんは季紗季の魔人能力によって生まれた魔人ハリガネムシである。彼女自身がどう認識しようと、ハリガネムシくんが季紗季の所有物であることに変わりは無いのだ。
王道がヒュンヒュンとハリガネムシくんを振ってみせる。最強の男に武器を与えてしまったのだ。盗人たちは圧倒的に不利になった。
「くそ・・・・・・・ったれぇぇぇええええええ!!!!!!!」
闇雲が叫ぶ。闇雲はやけになって己の能力『悪魔の毒毒ブルース』を使ってマシンガンを召喚した。王道に向かってマシンガンを撃ちまくる!
だが王道がハチの巣になることはない。ハリガネムシくんを高速で振るって弾を撃ち落としているのだ。パシリたるもの、鉄砲玉も自分で防がなくてはならない。
近距離まで来たところで王道は闇雲のマシンガンにハリガネムシくんを叩きつけた。マシンガンはバラバラになって、部品があちこちに散らばる。
「さあ、大人しく購入されろ・・・」
王道が闇雲に手を伸ばす。
そこで王道は違和を感じた。闇雲の背後に不思議な男が立っていたのだ。今までいなかったはずの男が、唐突に現れたのである。白塗りの顔面、尖った耳、蝙蝠の翼…刺々しい肩パット…ジーパン…モヒカン…マチェット…まごう事なき悪魔である!悪魔は実在した!
「コングラッチュレイショォォオオオオオオンンンン!!!!!!!闇雲君に鉄砲玉をプレゼントだぁぁぁああああああ!!!!!!」
悪魔は抱えていたマシンガンを出鱈目に撃ちまくる!
「えっ、ちょま・・・」
闇雲がつぶやく。が、悪魔は気にせずマシンガンを放つ!!!マシンガンは闇雲の体をハチの巣にし、ついでに射線上にいた王道もハチの巣にしてしまう!油断である!
「ギャァハハハハハハハッ!!!!!!人を撃つのは楽しいなぁ!!!!」
悪魔は悪魔じみた笑い声をあげる!この人でなし!悪魔!
適当に死体撃ちをした挙句に飽きたのか、悪魔はマシンガンを放り捨て「アディオス!」と放って消えた。今度はちゃんと言えたね!
「・・・何だったんだ今のは」
掏児が呟く。
「・・・わからん、ただ」
住吉が倒れ伏す闇雲の下へ歩み寄り、自身の服をかけてやる。
「こいつが活路を開いてくれたのは、確かだろう」
そして、悪魔の落としていったマシンガンを拾う。
「行こう、絶対に伝説の焼きそばパンを手に入れるんだ」
3人の盗人は歩みを進める。それぞれの思いを抱いて。

「もうそろそろ店長の部屋か・・・ところで」
掏児が言う。
「このへんに3,4個落とし穴の罠があるらしい。それで、誰かにそれを確かめてほしいんだが・・・」
そこで、掏児と住吉は兵動惣佳を見た。
「惣佳ちゃん、行ってくんない?」
「え・・・いや、私罠があるかどうか確かめる能力とか持ってないんですけど・・・」
「それは俺たちもだよ。だから惣佳ちゃんがやってほしいなって」
「いやでも、下手したら落とし穴に・・・」
「いいから行った行った!」
掏児は惣佳の背中を押す。3、4歩慣性で前に出たところで惣佳の足元が開き、声とともに消えて行った。
「・・・・・・・・・・・・あっ、そうだ」
住吉が何か思いついたように肩にかけていたマシンガンを持って、先っぽで地面をちょんちょんとつついて見せる。
「こうやって地面を確かめながら進めばよかったんだよ」
「あーなるほどなるほど、頭いいな~」
掏児が感心したような声を上げた。
二人は快活に笑いながら道を進むのであった・・・。

「きゃん!」
惣佳は尻に衝撃を受けて声を上げる。といっても地面が柔らかかったので怪我は無い。何かマットのような素材である。
「はぁ・・・ひどいなーあの人たち」
愚痴りながらも惣佳はどこか納得していた。そもそも自分は、盗人たちの中でも役立たずであった。
動物と話ができるということで、もしかしたら店長室への隠し通路なんかについて動物たちから聞き出せるのでは?と期待されて今回の盗みに参加させられたのだが、そんなものを知っている動物など一匹もいなかった。ただ、参加した以上は逃がすわけにはいかないとここまで連れてこられたのだ。だからここで捨てられてしまうことは何となく予想していた。役立たずに渡す分け前など無いに決まっている。
ただ、動物たちから一つも情報を聞き出せなかったかといえば、うでもない。今回の盗みに関する情報・・・店長の情報に関してはほんの少しだけ聞き出せたのだ。
惣佳は猫の小次郎との会話を思い出す。
「ねぇ小次郎、玉木令示って人について知ってる?」
『・・・なんだソーカ、そいつが気になるのか?』
「えっ?・・・まぁ気になってるちゃあ気になってるかな」
『だったら言っておくが・・・アイツは危ない。絶対に関わるな』
「えっ、なんで?」
『まあ、アイツは俺にミルクをくれたこともあったし、いいやつではあると思うんだが・・・ただ、危ないんだ』
「根拠は?」
『勘だよ』
「え、それだけ?」
『それだけだ。あ、煮干しくれ煮干し』
他の動物も似たような反応だった。よくわからないが玉木令示は危ない、とのことだった。
得られた情報はそれくらいで、ぶっちゃけ役には立たなかった。そもそも何が危険なのかがわからないからだ。実際玉木の能力は危険な部類に入るし、プロの万引きGメンであるという点も危険なことに当たるだろう。抜け目ないところも危険である。
「ところで、ここはどこなんだろう?」
上の倉庫は元ダンジョンの一階である。ダンジョンの一階から落ちたということは、ここはダンジョンの二階だろう。だが、見たところモンスターの類はいないようだ。それどころか、人によって整備されているようでもある。
立ち上がって辺りを散策してみることにした。何か情報が得られるかもしれない。
辺りは薄暗く、手探りで進まねばならない。壁を伝っていくのが一番だろうか。
そう思って壁伝いにしばらく進むと、手触りが変わる場所があった。調べてみると扉のようだった。
恐る恐る扉を開けてみて、惣佳の目に入ったのは、鉄格子であった。そう、壁一面に鉄格子が張られていたのだ。そして、その中には人間が入っていた。それが牢屋であると認識するのにそう時間はかからなかった。
購買部の倉庫の下にこんな施設がある。それがいったいどんな意味を持っているというのか?
『アイツは危ない』という小次郎の声が頭に浮かんだ。

「さて、着いたな」
「ああ、作戦についてはわかってるな?」
今や、掏児と住吉は店長の部屋のすぐ近くまで来ていた。
作戦というのは、店長をマシンガンで脅し金庫の番号を聞き出すというものだ。酷くやっつけな作戦かもしれないが、多くの魔人が脱落した今、この作戦くらいしか有効なものは無かった。店長の部屋の辺りには全く監視カメラは設置されていない。また、『現行犯逮捕』は直接見た相手には効かないのだ。だから、行動不能になることは無いだろう。
「それじゃあ行くぞ・・・」
二人は店長の部屋の入口に近づく。部屋を除くと、店長の玉木令示が背中を見せていた。何やら雑誌でも読んでいるようだ。アレは月刊ヤングマガジンだろうか?そういえば横田先生、ダンゲロス完結おめでとうございます。ジャンプでの連載も楽しみにしてます。
住吉が玉木の頭にマシンガンを突きつける。
「おい、殺されたくなければ金庫の番号を教えろ」
反応は無い。
「おい、聞いてんのか。あと10秒で撃つぞ」
相変わらず反応は無い。
「10・・・9・・・8・・・」
そこで玉木が振り向く。その顔には笑みを浮かべていた。
「・・・おい、何がおかしいんだ?」
玉木は何も言わずにくつくつと笑う。いったいなんだというのか。
そこで住吉は気づいた。上方で、何かが這いずるような音が聞こえるのを。
「・・・っまさか!」
上を向いた時にはもう遅かった。上の金網から出てきた自走型監視カメラに見られ、住吉は意識を失った。
掏児は焦る。自分はあの監視カメラに映ってないようだが、アレがあと少し首を傾げれば、自分は行動不能になってしまう。
「おい!殺されたくなければアレを止めろ!」
自分で言っておいて、全く意味がないことに気付く。そもそも自分は武器も持ってないし、相手は今なら無理やり掏児を監視カメラに映すことだってできる。監視カメラがゆっくりと、焦らすように首をかしげる。まるで蛇に睨まれた蛙だ。
(どうする!どうする!どうする!)
監視カメラは少しずつ、少しずつ首を傾ける。遊んでいるのだ。
監視カメラは首を傾け・・・掏児の姿を映した。玉木の眼球に掏児の姿が浮かぶ。
・・・だが、掏児は倒れていなかった。
何故か?掏児の両手を見てほしい。その両手には眼球を握っている。玉木の眼球だ。
掏児の魔人能力『フィンガーマン』によるものである。この能力により、掏児はなんでもスることができるのだ。財布だって、眼球だって・・・もっとも、心臓は盗めないようだが。
掏児は眼球を放り捨て、住吉の持っていたマシンガンを拾って玉木に向ける。
「いいか、金庫の番号を教えろ。教えなければ殺す」
玉木は手を上げた。そして、手を上げた時に少しマシンガンの先に手が触れた。
その時不思議なことが起こった。マシンガンの先から弾が漏れ出したのである。
「・・・は?」
そう、比喩などではない。マシンガンの先から我慢汁のように弾がボタボタと漏れ出したのだ。掏児は焦って引き金を引くが弾が出ない。全弾撃ちつくしである。
玉木が掏児の体に触れる。すると、たちまち全身の力が抜けてへたりこんでしまった。
玉木は立ち上がり、掏児を見下ろして言った。
「さあ、お仕置きの時間だ」

そもそも万引きGメンとは何か。
知識豊かな読者諸君にはわざわざ説明する必要も無いとは思うが、誤解を招くといけないので一応説明しておこう。万引きGメンとは、スーパー、コンビニなどで万引きなどの犯罪を行った人を捕まえて、尋問の末レイプする人のことを指すのだ。そのため、万引きGメンになれるのはレベルの高い淫魔人だけだ。
玉木令示、彼は希望崎4大淫魔人のひとりである。銃を射精させることができるほどの実力の持ち主である。動物たちは本能的に、彼のセックスアドバンテージを恐れていたのだ。
「あ・・・・ぁあああああぁぁ・・・」
掏児が切なげな声を出す。男性器を弄られているのだ。性器からは精液がビュルビュルと出ている。電撃、というよりは湧き水のようにだ。
「ふむ、先程までは部屋中真っ白けになっちゃうんじゃあというくらいの勢いだったが、さすがに陰茎の刺激だけじゃこれが限界のようだな・・・ならば」
玉木は掏児の玉を思い切り握る。
「クァァアアアアアア!!??」
ビュルッ!ビュルルルルルルッッッ!!!
突然の強い刺激に、掏児はまた勢いよく精液を噴出し始めた。加えて乳首も弄られ興奮は最高潮に至る。
「どうだい?男にイかされる感覚は・・・」
玉木が耳元で囁く。男に犯される屈辱感、非現実感、それらがまた掏児を絶頂に導かせる。
「嫌だぁぁ・・・・イきたくにゃい・・・イきたくにゃいにょにまったイッてぇへぇええええ!!???」
精液が噴水のようにドバドバと吹きだす!その様に玉木も歓喜する。
「おお、ここまでの勢いは僕も久しぶりに見るよ!僕と君はよっぽど相性がいいのかもしれないねぇ!・・・ということは」
玉木が玉から手を放す。掏児は解放されて息をつく。
「こっちはもっと相性がいいかもしれないねぇ!?」
「ほ!?おしりひぃぃいいいいいい!!!???」
間髪入れず玉木は尻に指を突っ込んだ!尻穴は人の神経終末が集まる場所であるため非常に敏感である。玉木の舐めるような優しさと、殴りつけるような激しさの合わさったテクニックは、掏児を瞬時に絶頂に導く!
「ひひぃぃいいいいいいんんん!!????」
「おお、すごい!精液が滝のように出ているぞ!これならどうだ!?」
玉木は肛門越しに直接前立腺を刺激する!掏児は女のように何度も絶頂する!1秒間に8回くらいは絶頂してるぞ!
「あがぁ!?あっ・・・あぁ・・・」
掏児の意識が遠のく。目の前にはまるでくじらの潮のように勢いよく、そしてとめどなく溢れ出す自分の精液。掏児は己の血が全て精液に変わっていくかのような錯覚を味わった。
「・・・む、気絶してしまったか。仕方ない、下の牢屋に放り込んでまた楽しむとしよう」
玉木はまた椅子に座った。
「目玉は保健委員に治してもらうとして、倉庫のあちこちに落ちている盗人たちは明日、購買部員たちにまとめて牢屋にぶち込んでもらうとしよう。そういえば牢屋の監視カメラで見たあのメガネの娘、可愛かったなあ、フフ」
部屋中に漂う栗の花の香りを嗅ぎながら、玉木は独りごちるのであった。

翌日。
「伝説の焼きそばパンください」
購買部の施設で、「普通」の男子生徒上下 中之はそう言った。
「108円ね」
「これで」
「はい、毎度あり」
玉木はお金を受け取って上下を見送る。
伝説の焼きそばパンを買ったのは「普通」の生徒であった。
彼は「普通」に購買部まで来て、「普通」にお金を払って、「普通」に伝説の焼きそばパンを手に入れたのである。
最終更新:2015年05月04日 15:25