ヒロイン池田とちょい病みキャップ

陶磁器のような肌に、息を飲む。

幼馴染に借りた本にそんな表現が載っていたけれど。

いざ目の前にしてみると、何も考える事が出来なくなってしまうのだと、京太郎は知った。

 

「見て欲しいの。京太郎には、私の全部を」


一糸纏わぬ美穂子の姿。

いつもは閉じられている右目も見開かれている。

左右の異なる色の瞳に射抜かれた京太郎は、美穂子の肢体から目を離すことが出来なかった。

 

「だから、京太郎も――私に、見せて?」

 

例えるならば、淫らな娼婦。

艶やかな吐息に耳を擽られる。

男には耐え難い誘惑。


――京太郎! 一緒に帰るかー!!


「っ!」


だけど。

耳に響いた、あのやかましい声が。

京太郎の理性を、押し留めた。


「……すいません、福路さん」

「……え?」

 

肩に乗せられた彼女の手を拒む。

それ以上の言葉はない。

京太郎は一度も振り返ることなく、その場を後にした。

ただ一人、美穂子を残して。

 

「……」

 

美穂子は何も言わず、京太郎が消えた後も、ただ無表情で闇の中を見つめ続けていた。

最終更新:2014年07月09日 20:34