「ついに、俺が……」
3年目のインターハイ。今回は雑用係ではない。
咲や和の付き添いではなく、自らの手で掴み取った個人戦選手という立場。
緊張で足が震える。今ならあの時の部長の気持がわかる。
「そんな京太郎くんにコレ☆」
「はやっ!?」
いつからいたのか、隣から掛けられた声に心臓が跳ねる。
牌のおねえさんにも仕事があり、こんなところで京太郎に構っている余裕はない筈だが。
差し出された手の平に乗せられた白い粒に、京太郎は怪訝な表情をはやりに見せる。
「これは?」
「勝てるようになるお薬だよ☆」
「え? なにそれこわい」
真顔でドン引きした京太郎だが、冷静に考えるとそんな変なモノを彼女が所持しているわけがない。
恐る恐る彼女の手の平から白い粒を摘み、口に含むと――甘い。
「砂糖?」
「あはっ」
きっと、彼女なりに京太郎の緊張を解そうとしたジョークなのだろう。
思わず苦笑が零れるが、脚の震えは止まっている。
「ありがとうございます。じゃ、行ってきますね」
「頑張ってね! 1番応援してるから☆」
その後、京太郎はギリギリのところで一回戦を通過した。
ほっと一息吐くと同時に、はやりのあのジョークが無ければ勝てなかっただろうと思い返す。
あとでお礼を言いに行こうと決めて――また、あの砂糖を舐めたくなった。