嫁の池田と家政婦キャップ

須賀京太郎と池田華菜――もとい、須賀華菜は仲睦まじい夫婦である。

二人の出会いは高校の麻雀部。

当時のキャプテン、福路美穂子に一目惚れして入部してきた京太郎に対し、華菜が釘を刺してきたのが始まりだ。


「私の目が黒いうちはキャプテンに変なことはさせないし!」


一方的な言い掛かり。

最初は尊敬するキャプテンに色目を向けるヤツなど許さない、というような理由で京太郎を監視する華菜だったが。


「……なんか、意外といいヤツ?」


気が付けば、部内で最も京太郎と触れ合う機会が多くなっていた。

そうして互いに誤解と偏見が抜けてしまえば、根っ子は面倒見がいいもの同士、打ち解けるのも早い。


「京太郎! 一緒に帰るかー!!」


華菜の妹たちも京太郎のことを気に入った。

夫婦だなんだと、冷やかされることも増えた。

最初は照れ隠しに、互いに否定し合うこともあったが――


「俺……先輩のこと、名前で呼びたいです。本当の意味で」


――華菜が卒業する日に、ようやく二人は結ばれた。


華菜が卒業しても、互いの仲が冷えることはなく。

むしろ普段会えない分、休日は二人で多いに盛り上がり。

京太郎も華菜も社会人となって、生活が安定すると、晴れて結婚式を迎えることとなった。

 

「須゛賀゛ア゛ァ゛ッ!!」

 

結婚式では両親以上に号泣したかつてのコーチにちょっとだけ引いたりもしたけれど、多くの友人が祝福してくれた。


――ただ一人、かつてのキャプテンは、やって来なかったけれど。

 

 

 

子宝に恵まれ過ぎるという幸せな悩みを抱えた二人は、家政婦を雇うことに決めた。

三つ子どころか六つ子ともなれば、流石の二人でも厳しいものがある。

 


「今日から、よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げる女性に、京太郎は言葉を失った。


「小さい子の相手は得意なので、任せて下さいね」


左右の、異なる色の瞳が。


「他にも、精一杯頑張りますから」


真っ直ぐに、一切揺れることなく。


「末長く、よろしくお願いしますね」


京太郎を、見詰めていた。

 

 

 

「おかーさん」

「こーら、あなたたちのお母さんは華菜さんでしょう?」


指を咥えてトテトテと美穂子に歩み寄る子どもを、そっと窘める。


「それに、指をしゃぶっちゃ駄目よ? 病気になっちゃうから」

「う?」

「でも、おねーちゃん。おかーさんみたいに、おとーさんと――」


しっと、人差し指を子どもの口に添えて。

小さく微笑みながら、美穂子は子どもの口を塞いだ。


「ヒミツだから、ね?」

「ヒミツ――うん、わかったし!」

「ふふ、よくできました。後でおやつを作ってあげる」

「やった!!」


ジワジワと、蜜が染み出すように。

甘い匂いが、ゆっくりと家の中に広がった。

 

最終更新:2014年07月23日 21:59