他には誰も

一人目は、小学生の頃。

クラスで隣の女の子に告白された次の日。

その子が、足の骨を折って入院した。

 

二人目は、中学生の頃。

ちょっといいなと、軽い一目惚れをした名前も知らない子。

酷い虐めにあったとかで、一月後には転校してしまった。

 

三人目は、高校に入る直前に。

その子とは幼馴染で、友達以上恋人未満な関係をずっと続けていた。

別々の高校に通うことが決まって、離れ離れになる前に、告白しようと決心した日。

その子は、京太郎の目の前で、トラックに――

 

 

「……あ」


バクバクと、胸を内側から叩き付けられるような痛みで目が覚めた。

汗でシャツが張り付いて不快だ。


「あ、ぁ……」


――京、ちゃん?


「……ああああああぁぁぁっ!!」


助けられなかった。

目の前で、足が、頭が、変な方向に向いて。

黒くて赤くて、よく分からない何かの色でベットリ染まった幼馴染の姿が、ずっと瞼の裏側に焼き付いて離れない。


「クソ、クソ、クソ……!!」


何度も、壁に拳を叩き付ける。

手の平の中に残る、指の感触を振り払うように。

痛みで、痛みを誤魔化すために。

 

「京さんっ!!」

「……あ」

 

――だけど。

隣から全身を包む甘い匂いが、その行為を中断させた。

 

 

「モモ……?」

「はい……ここに、いるっす」


皮が破れて、血が出た拳に添えられる白い指。

確かに、彼女が、ここにいる。


「……っ!」


離さないと、苦痛すら感じさせる力で桃子を抱き締める。

桃子は優しく微笑んで、京太郎の頭をそっと撫でつけた。


「……大丈夫っすよ」


いなくなって、いなくなって、いなくなって。

いつしか誰も、京太郎の隣に立っていなくて。

誰も見えなくなった世界に――ただ一人だけ、色を持った少女。


「離れないでくれ……」


桃子がいなくなったら、本当に京太郎は一人ぼっちだ。

桃子も、そのことは分かっている。


「……一生、一緒っすよ」


ずっと、後ろ姿を見ていたから。


京太郎にしか見てもらえない桃子。

桃子しか見ることのできない京太郎。


二人の世界は、それだけで、閉じていた。

最終更新:2014年08月17日 16:50