水面の下

「お届けものでーす」

「ものってそんな……」

「トイレくらい迷わずに行けるようになってから言え」

「うう……」


インターハイ会場でも、咲の方向音痴っぷりは遺憾なく発揮され。

帰って来ない咲を、京太郎が見付けて帰って来るという、いつも通りの光景が見られた。


「まぁ、こういう場でもいつも通りの自分を――ってポジティブに考えたらどう? 咲が迷子にならずに帰って来たらそっちのが怖いし」

「あ、確かに」

「ひ、ひどい……」


「あ、そうだ。須賀くん、帰って来てばかりで悪いんだけど、風越の先生にこのプリント渡して来てくれる?」

「うっす」


久から一枚のプリントを受け取り、去り際にグリグリと雑に咲の頭を撫でて、京太郎は退室した。

ドアが閉まると同時に、久はにっこりと笑みを浮かべて。


「いい加減、自分の存在そのものが須賀くん迷惑だって、気が付いたらどう?」

「部長こそ――京ちゃんが、自分の奴隷か何かだと勘違いしてるんじゃないですか?」


互いに穏やかな微笑みを浮かべたまま、思うことは同じで。


「あなたなんか」

「いなくなっちゃえば、いいのに」

最終更新:2014年08月17日 16:54