『進撃の巨人』ファンの間でも謎とされるのが、ウトガルド城でのユミルとライナーの「鰊(ニシン)の缶詰」に関する会話です。
調査兵団がウトガルド城に立てこもった夜、ユミルが残された食料を漁っていると、ライナーがやってきます。
ライナーはユミルの見つけた鰊(にしん)の缶詰を見て、不思議な事を言い出します。
「・・・何だ この文字は? 俺には読めない。 「にしん」・・・って書いてあるのか・・・? お前・・・・・・ よく・・・この文字が読めたな・・・ユミル」
しかし、缶詰に書かれている文字は表紙裏の逆さカタカナ文字であり、この世界の標準的な文字。
当然ライナーはこの文字を読めるはずです。
なのに、なぜライナーは読めないと言ったのでしょうか?
そこで、いつものように仮説を立ててみます。
以前からユミルはライナーが壁外の「あっち側」から来た人間だと気づいていたのではないでしょうか。
ライナーのコニーの話への反応を見てピンと来たのか、あるいは他の理由から疑っていたのだと思います。
ユミルはこう考えたのではないでしょうか。
「ライナーが「あっち側」の人間なら、自分とクリスタを守るために正体を握っておきたい」
「しかし確証は無いし、ライナーが壁内人類だったら、正体を明かすと自分も危険だ」
なぜかライナーたちやユミルは、エレンなど壁内人類が世界の秘密を知る事を異常に警戒しています。
なぜそこまで警戒するのかを、いつも通り、仮説を立ててみます。
・壁内には壁内人類の知らない秘密の最終兵器(のようなもの)が隠されていて、壁内人類がその事に気づいて最終兵器を使用するとこの世界全体が死滅する。
・だからライナーたちは世界を守るために、壁内人類が最終兵器に気付かないうちにコッソリ盗み出すか、それが不可能なら破壊したい。
・ユミルも最終兵器の事を知っているが、彼女の場合はヒストリアを守るために世界の崩壊を防ぎたいので、壁内人類に最終兵器の事を教えたくない。
・この説が成立するには、ライナーたちもユミルも「壁内人類が世界の秘密を知り、最終兵器に気付いたら必ず使用する」と確信していなければならない。
・エレンは最終兵器の部品か、あるいは最終兵器そのものである。
この仮説に従い、ユミルは「ヒストリアを守るために」壁内人類に自分の正体を教えたくないと考えていると仮定します。
そこでユミルはさらに考えを巡らせます。
「壁内人類には意味が分からず、壁外の人間だけに通じる検証方法はないだろうか?」
そこで、缶詰を見た瞬間にひらめいたのでしょう。
「この鰊の缶詰を使えばライナーが壁外の人間かどうか確かめる事ができる!」
「壁内には海が無いため、鰊は存在しない」
「ライナーが鰊を知っていれば、海や鰊を知っている事になり、壁内の人間ではないと分かるじゃないか」
なぜ缶詰で壁外の人間かどうかを確かめる事ができるのか?
【現在効果可能な情報】の「11.酵母」で、壁内では酵母で食糧の腐敗を遅らせて貯蔵していると書かれています。
つまり、壁内の保存食は酵母や小麦、大豆、干し肉、それに11巻でハンネスさんが持ってきた乾パンかクッキーのような野戦食糧などであり、おそらく壁内には缶詰が無いと思われます。
もう一点、壁内に缶詰が無いと考えられる理由は、壁内は人為的に中世~18世紀頃までの文明レベルにとどめられている可能性があるからです。
仮説(3)壁=新型巨人研究室説で、私は「壁内は壁内人類=巨人を改良する研究室で、実験が終わるたびに巨人を壁の外に追い出して人類を新しく作り直している」という疑似ループの仮説を立てました。
巨人の夜間活動力に性能差があるのはそのためです。
要するに巨人のバージョンが新しいほど性能が高いわけです。
改良の目的は、①絶滅した人間を復活させる事、②太陽エネルギーを集めて貯める生体電池を作る事、などが考えられます。
①の場合、かつて動物を食い尽した悪魔のような人間が復活するのを、ライナーたち別の人類は阻止したい。
②の場合、巨人はソーラーパネルと蓄電池を兼ねた存在で、現在は蓄電能力が低いので昼しか活動できないが、次第に蓄電能力が改良されて太陽光の無い夜間でも活動できつつある。太陽エネルギーをより大量に蓄電可能な巨人を開発する目的は、最終兵器のエネルギー源にするためである。エレンは巨人の集めた太陽エネルギーを自分の体にまとめる事のできる特別な巨人であり、いわば太陽エネルギーを巨人から取りだすためのカギであり、そして最終兵器を動かすための動力源でもある。壁はその最終兵器の発射口であり、ライナーたちの世界が標的になっているため、ライナーたちは最終兵器の発動を阻止するために壁内人類=巨人=最終兵器のエネルギー源を絶滅させようとしている。エレンがいなければ巨人が蓄えた太陽エネルギーは取り出せず、最終兵器は動かない。だからエレンを殺せば任務完了だが、しかし、太陽エネルギーを巨人から取り出す事のできるエレンは自分たちの世界でも利用できるため、出来れば連れ帰りたい。
そして、この改良実験をしている何者かは壁内で人類の歴史をシミュレートしているのではないかと考えました。
そのため、最初の壁内人類は古代の生活から始めて、作り直すたびに時代を進めているのではないかと思われます。
実験開始時の時代設定は、もちろん二千年前の古代です。
現在の壁内は壁ごとにモデルとなる時代や場所(国)が異なり、中央に行くほど時代が新しくなっているように見えます。
一番外側のウォール・マリアが17世紀のドイツ、中央のウォール・シーナが18世紀のイギリスというイメージです。
『進撃の巨人』の庶民生活や文化レベルは、できるだけ正確な時代考証に基づいていると仮定し、検証してみましょう。
私は、今の壁内の時代設定は18世紀=1800年以前だと見ています。
サミュエル・コルトがリボルバー銃を開発するのが19世紀、1836年。
つまり、リボルバー銃は今の壁内には存在してはならないわけです。
実際に作中では、リボルバー銃を開発していた老人が憲兵団によって粛清されたらしい事が描かれています。
老人はまだ存在してはいけない未来の道具を作ってしまったため、壁内の時代設定を守るために粛清されたのではないでしょうか?
逆に、新聞は1650年に世界初の日刊紙「ライプツィガー・ツァイトゥイング」が創刊されているため、存在しても大丈夫です。
ところが、モンゴルフィエ兄弟による熱気球の有人飛行は1783年で18世紀。
私の仮定に基づけば存在しても問題が無いはずですが、熱気球を作った夫婦は憲兵団に粛清されています。
これに関してだけは時代設定に関係なく、空を飛ぶこと自体がタブーなのではないかと予測してます。
これは仮説(1)巨人=テラフォーマー説で書いた、この世界は閉じた生命球ではないかという仮説に基づいています。
要するに、憲兵団は壁の平和を守るためというウソを教え込まれて、実際には時代設定に矛盾する存在を消し、壁内人類が世界の秘密に気付かないように情報統制していただけなのです。
そして、缶詰は19世紀、1810年の発明です(19世紀は1801~1900年)。
もしも壁内の時代設定が私の分析通り17~18世紀頃なら、缶詰は壁内には存在しません。
つまり、壁内人類なら缶詰を知らないはずです。
話をウトガルド城に戻します。
ユミルは一瞬迷いますが、、鰊の缶詰をライナーに渡します。
ユミルの狙いは2点です。
(1)ライナーが缶詰を知っているかどうか?
(2)ライナーが鰊を知っているかどうか?
ライナーの反応はこうでした。
(1)缶詰は知っている。
(2)鰊は知らない(というフリをしている)。
ライナーは「こりゃ缶詰か?」といった直後に「・・・・・・!」と何かに気付いて目を見開いています。
「しまった、缶詰を知っていると白状してしまった!」という失敗と、ユミルが缶詰を知っている事に気がついたのでしょう。
ライナーはこう考えたのでしょう。
「自分が壁外から来たと知られてしまった、しかしユミルも缶詰を知っている以上、壁内の人間ではないはずだ。ではユミルは何者だ?」
もしかしたら、ライナーも以前からユミルを疑っていたのかもしれません。
そこで、瞬時にライナーは反撃し、ユミルの正体を探るために逆質問をします。
「・・・何だ この文字は? 俺には読めない。 「にしん」・・・って書いてあるのか・・・? お前・・・・・・ よく・・・この文字が読めたな・・・ユミル」
※鰊については、ライナーは本当に鰊を知らない可能性の方が高いと考えています。私はライナーたちの故郷は月か、それとも先代の壁内世界である可能性を考えています。
(3)知っているはずの文字を知らない(というフリをしている)。
ライナーはユミルの予想外の答え、第3の答えを出しました。
ライナーはわざと、壁内の標準語である逆さカタカナ文字を「俺には読めない」と口にします。
壁内の標準語を読めないという事で、自分が壁外から来た事を伝えたのだと考えられます。
しかし、自分の正体を完全に明かす事はできない。
そこで鰊については知らないフリをします。(本当に鰊を知らないのかもしれません)
そして後半の「お前・・・・・・ よく・・・この文字が読めたな・・・ユミル」は、「お前、壁内人類じゃないのに、よくこの文字が読めたな。壁外から来たのか?それとも先代の人類なのか?」という意味であり、ユミルがボロを出すのを狙った発言でしょう。
つまり、このシーンはお互いの正体を探るための騙し合いなのです。
ライナーのセリフに矛盾があるのは、ユミルの正体を探るためにわざと嘘を混ぜているからです。
もうひとつ、重要な可能性があります。
それは、「壁内の逆さカタカナ文字は、日本の片仮名が変化した文字」である可能性です。
壁内の逆さカタカナ文字は、もともと日本語の片仮名であり、壁内では「片仮名を意図的に作り変えて使用している」か、あるいは「片仮名が変化するほど長い年月が経っている」のではないでしょうか。
つまり、ライナーが「俺には読めない」と言っているのは「俺は日本側の人間ではない(ヨーロッパ側だ)」という意味であり、「お前・・・・・・ よく・・・この文字が読めたな・・・ユミル」と言っているのは「日本語を読めるという事は、お前は日本側の人間だな?」という意味です。
ここで、ユミルとライナーはお互いに相手が壁内人類ではないと確信します。
おそらくほぼ正確にお互いの正体を理解したのでしょう。
ユミルはいざという時の保険に、ライナーたちの正体を握っておきたい。
ライナーは座標の情報を聞き出すか、あるいは正体を知られたのでユミルを殺さなければならないかもしれない。
12巻のライナーたちとユミルの会話から察すると、ユミルはライナーたちの故郷に行くと、戦士に食べられてしまうようです。
これも私の「壁内人類=人型になった動物説」「壁内人類=缶詰説」「巨人=病気、エレン=ワクチン説」に合致する内容です。
したがって、11巻末~12巻の誘拐された後のライナーとユミルの会話も、原則的に騙し合いや腹の探り合いです。
彼らの話している事を、そのまま鵜呑みにはできません。