東條操『全国方言辞典』「凡例」

凡例

 一、採録した方言は、主として既刊未刊の方言集から信頼するに足ると判断した報告を引用したものであって、これに編者の直接採集によるもの若干を加えた。

 一、方言集からの引用には文献名を注すべきであるが、便宜上おおむねそれを省略した。たゞし、江戸時代の文献によるもの及び明治時代の南島文献によるものは書名を注した。

 一、使用上の便宜を考えて、見出しをなるぺく多く立てる方針をとった。学問的には一項目にまとめるべきものを數箇所に分散掲出したこともあるが、その場合には必要に応じて他を参照し得るように↓印をもって関係語彙を指癇することに努めた。

 一、同じ語原に由来すると考えられる語、同じ語の意味変化と考えられるものは、なるべく一項目におさめ、語義の違うごとに①②③の番号をつけて区別した。その番号の語義を有して語形の少しく相違している語がある場合は、同じ番号の下に見出しと同じ太字体をもって掲げた。

 一、慣用句は、索出の便宜のために、おおむね冒頭の一語の位置に排列し、その語のみ太字で示すことにしたが、時に全句をもって排列したこともある。

 一、語彙の排列は、方言を表音式に書き表わしたものの五十音順による。たゞし、「てぃ」は「て」、「とぅ」は「と」に準じたが、「くゎ」は「か」の位置に置いた。時に「ぢ」「づ」を用いた場合もあるが、現代語に於ては殆ど「じ」「ず」と区別の無いことが多く、排列には全く「じ」「ず」と同じ取扱いをした。長音符は、第一音節につく場合のみおおむね第一音節と同じ母音として取扱ったが、そのほかの揚合はそれが無いものと同様に排列した。

 一、品詞は略符 [代][動][形][形動][副][連][接][助][助動][接頭][接尾]をもって示した。[形動]は形容動詞、[連]は連体詞の意である。単語でないものはおおむね[句]としたが、時に用法に従って[副][動]などと示したところもある。品詞名の注記を欠くものは、品詞の所属が不明であるか、又は名詞の場合であって、その際には訳語と同じ品詞の語を用いることを心懸けた。

 一、語原又は語の構成を、括弧の中に漢字によって注したものもあるが、多くの不明のものと共に誰にでも直ぐ考えつかれるようなものにはこれを省略した。

 一、努めて例をあげて語の用法を示すことにしたが、これによって品詞名注記の欠を補うこともでき、動詞の活用の種類を推察することができる時もあるであろう。たゞし、この場合その語の前後はおおむね普通語によって、分りやすいようにした。

 一、関係語或いは原形などを知り得るように、↓印をもって、努めて参照すべき項目を指示することにした。

 一、使用地域は、古文献によるものを先にあげ、次に現代の分布を、いずれもおおむね東北から西南への順序で示した。

 一、現代の方言の使用地域は、おおむね郡名をもって示し、広く通用していると思われるものは県名(鹿児島県の一部及び旧沖繩県は「南島」とした)、極めて限られていると思われる場合は町村名を示した。国名はなるべく避けて県名に従ったが、古文献によるものは勿論、現代の地域についても、必要に応じて国名をもって示したこともある。郡名及び国名は、巻頭に添えた地図によってその位置を知り得るようにした。地図は最近の郡名を頭二字の略記によって示したが、本文中には時折旧郡名をも用いているから、必ずしも一致しないことがある。

 一、現代方言として採録したものも、明治後期から昭和までの報告調査によるものであるから、使用地域として示した地方でも既に廃語となって、今日通用していないことがあるであろう。

 一、使用地域として記した地名は、それらの地方で使われることを示すものであって、それらの土地だけにしか行われないという意味ではない。

 一、書名を注記して引用した古文献は、慶長年間の日葡辞書以後、物類称呼を初めとして三十部以上になるが、それらのうち略称によって示したものだけを左に示す。括弧内が使用略称。
  重訂本草綱目啓蒙(重訂本草)
  仙台言葉以呂波寄(以呂波寄)
  方言達用抄(達用抄)
  堀田正衡・仙台方言(方言考)
  大里源右衛門・仙台方言(仙台方言)
  浜荻仙台部補遺(浜荻補遺)
  新撰大阪詞大全(大阪詞大全)
  菊池俗言考(俗言考)
  南島八重垣(八重垣)
浜荻(はまをき)と名づけられた書物は、東北の庄内及び仙台と九州の久留米との三種を採り用いたが、いずれもその地名によってどの浜荻であるかは直ちに分るであろう。特に他地方の言語についての資料とした場合は例えば「庄内浜荻」というように断った。

 一、古文献のうち、俚言集覧、常陸方言、久留米浜荻の三書には、明治に入ってからの増補が加えられている。これらの増補はむしろ現代方言として採録すべきであったが、いちおう「俚言増補」「常陸補遺」「浜荻補足」と明記して古文献中に併載した。

 一、方言表記以外の一切の仮名遣は、現代かなづかいを守ったが、当用漢字及びその音訓は全く顧慮することをしなかった。当初、当用漢字の範囲内で書こうと試みたが、とうてい不可能であることを知ったからである。

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最終更新:2017年01月01日 19:59