「やっべ、俺もアイツを笑えねーなコレ……」
「あら、新入生?」
校舎の中で迷子になっている京太郎に煌が声をかけたこと。
これが、二人の出会いの始まりだった。
「では、須賀くんも長野から?」
「ええまぁ、そうですけど」
「すばらっ!」
「すばらっ!?」
同じ長野出身で、根は真面目なもの同士。
「おや、まだ明かりが……誰ですか、もう下校時刻は過ぎていますよ」
「あ、すいません! すぐ片付けますんで……」
「あら、須賀くん?」
ある意味で似たもの同士の二人。
「まぁ、何というか……癖みたいなもんですね。気が付くと雑用やってたりだとか」
「ふむふむ、献身的な精神ですね……大変、すばらです!」
「すばらって……」
「ですが、一人で頑張り過ぎるのも良くありません。きちんと周りにも頼ること!」
「花田先輩……」
話してみれば、打ち解けるのはすぐだった。
「花田先輩、少し教えて欲しいところが」
「お任せあれ!」
「……あれ、何だろう。おかしいところは無いのに違和感が」
共通の話題もあり、会話も尽きることがなかった。
「須賀くんは私の後輩とも面識があったんですね」
「すぐにこっちに転校してきたんで、そこまで仲良くはなれなかったですけどね。まぁ、優希のヤツなんかは――」
「……ふーむ」
「……? 花田先輩?」
「いえ、煌と」
「はい?」
「私も、煌と。名前で呼んでくれませんか?」
そして――
「支えたいんです、あなたを。あなたが俺を、助けてくれたみたいに」
「……」
「一人で頑張り過ぎるのは良くないって、言ったじゃないですか。頼ってくださいよ、俺にも」
「……すみません。少し、胸を借ります」
「……花田、その妙に大きな包みは?」
「お弁当です! 京太郎くんも成長期ですからたくさん食べないと!」
「二人の愛妻弁当ってやつか。そりゃ、その量も――」
「いえ、これは須賀くんの分です! 私のはこっち」
「……成る程、須賀のやつが羨ましか」
「あげませんよ?」
「いらなか。見てるだけで満腹ばい」
「……花田、ちかっと痩せたか? 顔色も悪い」
「そう、ですか?」
「うん。そいけん、今日は早退した方がよか」
「しかし、お弁当を届けなければ……」
「そいくらい私がやる。花田はベッドで――」
「駄目です」
「はぁ?」
「これだけは譲れません。私が、絶対にやります」
「……ばってん、その弁当渡したら」
「……はい」
「……後で、須賀のやつに言っとかんとな」
「誰だろ、こんな時間に……煌さん!?」
「メールの返事が無かったので、もしかしたらと思って……やっぱり、部室に携帯を忘れてましたよ?」
「いや、びしょ濡れじゃないっすか!! どうしてこんな」
「携帯無いと色々と不便ですから……くしゅっ」
「ああもう、今すぐ入ってください! 風邪引いちゃいますよ!?」
「でも、迷惑が……」
「そんなこと言ってる場合ですか!」
「あうっ」
「勢いで風呂にまで入れたはいいけど着替えが……」
「ふふふ……このワイシャツ、中々にすばらです!」
「……まあ、先輩がいいなら」
「……布団が一組しかないから仕方ないとは言え……」
「zzz……」
「ね、眠れん……」
「すばらぁ……zzz……」
「……くしゅっ」
「38度、風邪ですね。今日は一日ゆっくりしないと」
「何故に……普通、逆では……」
「鍛えてますからっ!」
「くしゅっ」
「でも煌さん……学校は?」
「恋人を放って勉学が身に入るものですかっ!!」
「はは……こりゃ、梃子でも動かないな……」
「卒業式、か……煌さんも来年は3年生なんだよなぁ……」
「そう言う京太郎くんには後輩が出来ますね」
「お、ここにいたか」
「部長」
「もう部長じゃなか」
「あ……すいません、哩先輩」
「ん。で、最後に須賀と花田に言うことがあってな」
「はい?」
「何ですか?」
「あー、その……くれぐれも、新入生の前では」
「ああ、節度を守れってことですね」
「大丈夫ですよ。俺も煌さんも締めるとこは締めるべきってのは分かってますし」
「私も、京太郎くんのそういうところが好きになりましたから……」
「煌さん……」
「京太郎くん……」
「まるで出来とらん……」
「しかし、それよか心配なのは花田の……」
「花田、ちかっと須賀貸して?」
「ええと、何を?」
「一年に雑用ば教える。須賀が一番上手く説明しーゆっから」
「ああ、そういうことでしたら」
「そいぎ、また明日ー」
「すいません、お待たしちゃって」
「いえいえ、こうして待つのも楽しいですから……ん?」
「? どうしました?」
「いや……何だか、京太郎くんからいい匂いが……これは、香水? それに……コレは……虫刺されですか?」
「あー……すいません、実はさっき……その、鶴田先輩と転んじゃって……」
「……」
「……それで、その……鶴田先輩を、思いっきり抱き締めたみたいになっちゃって……この首のとこも、その時に……」
「なんとっ!?」
「すいません! でも、決してわざとじゃなくて――」
「怪我は!?」
「――へ?」
「そんなことになってたなんて! 怪我は大丈夫!?」
「あ、ああ……はい、俺も先輩も大丈夫でした」
「ほっ……」
「……」
「まったくもう、そんなことがあったら早く教えて下さい。凄く心配したじゃないですか」
「は、はは……すいません」
「……」
「きょーたろっ♪」
「わっ!? 危ないっすよ、先輩!」
「京太郎がそぎゃんヤワなヤツじゃないのは私がよー知ってる」
「そんなこと言っても……それに、京太郎って」
「もう一年の付き合いばい。京太郎も私のこと名前で呼んで欲しか」
「で、でも……」
「んー? 花田のことなら気にしなくてよか。もう話してある」
「……はぁ、わかりましたよ。姫子先輩」
「花田みたいに呼んでくれんもん?」
「すいません。それは、流石に」
「むー……まぁ、今はそれでよか」
「あ、京太郎くん! 後で明日のお弁当の具材を買いにいきませんか?」
「お! いいですね、荷物持ちなら任せて下さいよ」
「すばらっ! 頼りにしてますよ」
「えへへ……♪」
「んー? 京太郎、どこいくー?」
「どこって……煌さんが熱出したって」
「それで部活サボると?」
「……」
「そぎゃんことしたら花田も悲しむ。花田のこと思うなら」
「……でも煌さんだって、俺が風邪引いた時に」
「……あー、京太郎も頑固もんだったか」
「あの……姫子、先輩?」
「ん。どうしても花田んとこ行きたいなら私ば引きずってけ」
「……はぁ、わかりましたよ。今はメールだけに」
「そいでよか。今は練習!」
「……今は、ね」
「んふふ……♪ 」
「熱か? 痛か? 苦しか?」
「我慢せんでよかよ?」
「おねーさんがまとめて、もらったげるけんね♪」
「あはっ……♪」
「? 随分と、機嫌が良いようで」
「んふふ♪ 貰っちゃったぁ、京太郎の初めて♪」
「まぁ」
「……?」
「あの、どいて貰えます? 明日のお弁当の具材を買わなければ」
「それだけ?」
「はい?」
「自分の彼氏取られたんに、そぎゃんこと言える?」
「むぅ、何と言いますか」
「……京太郎のこと愛しとらんの?」
「それはありえません、が……そうですね。姫子、あなたは哩先輩のことは嫌いですか?」
「ありえん」
「そうです。それですよ」
「……はぁ?」
「好きな人が増えたからって、前から好きな人を嫌いになるわけじゃないでしょう?」
「それに、今だって私は京太郎くんを愛しています。愛されてもいます」
「……ですが別に、愛されなくても良いんです」
「京太郎くんも男の子ですから。私より魅力的な女性を好きになることもあるでしょう」
「むしろ、心配なのは……京太郎くんが私を気にしてその人を心から愛せなくなることですね」
「だって、そうでしょう? 想い人が自分を引きずって幸せになれないなんて……とても、悲しい」
「勿論、その時が来れば私は京太郎くんの前から消えるけど……陰ながら、彼には見えない場所で一生を支え続けます」
「私を踏み台にして彼の幸せが守られるなら……これほど幸せなことはない」
「だって、それが」
「愛するってことでしょう?」
「それでは、私はここで。セールに間に合わなくなっちゃいますから」
「ふふ、今日は彼の大好きなオムライスなんですよ♪」
【きっとそれは、とても幸せな】