献身

真っ白な部屋。

俺と、ベッドと、名前も知らない女の子。

それだけしかない部屋の中。

いつからここにいるのかは分からない。


「お食事の時間ですよーぅ」

「ぁあ、う……」


ただ、目が覚めた時は既に全身が麻痺しているような状態で。

喋ることすら難しいのに自分が生きているのは、彼女のお陰ということしか分からない。


「ほーら、食欲が無くてもしっかり食べないと良くなりませんよー?」


スプーンと、流動食の入った皿を渡される。


「ぁ、ああ……」


腕が震える。スプーンを掬えない。

上手く口まで運びきれず、胸にベタベタ零れる。


「あー、仕方ないですねー」


そうすると、彼女は困ったように眉を八の字に曲げて、自分から皿とスプーンを取り上げる。

そのまま流動食を口に含むと、まるで鳥の親が雛に餌を与える時のように。

口から口へと、強引に流し込んでくる。


「……ぷはっ、まだまだありますからねー。おかわりしますー?」


いつもいつも、こうやって。

排泄の世話すら、嫌な顔一つせず。

まるで、自分がいないと生きていけないと、刷り込ませるように。


「早く良くなりますように。私も応援してますからー」


それが、いつになるかは分からない。

だけど、例え俺が外に出られる日が来るとしても。

この人は、いつまでも側にいるような気がした。

 


【献身】

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最終更新:2020年02月29日 14:10