“不完全を捨てた完全の青年”
※この記事のほとんどが新章・第二章のネタバレ、いわゆる解答編
故に反転部分は一切ありません
ネタバレが嫌な方はリターン
和鸞歴元年、完璧主義の一人の少年は生まれた。
皇唯晏。皇癒晏の弟。
完璧故、不完全で脆く儚かった。
そんな少年はある一人の女性に恋をする。
唯一自分に優しく接してくれた、帝怜禎。
戀に始まり戀に終わる、一人の少年の物語。
唯晏は姉よりも消極的で、身体を動かしたり外に出るよりも屋内で勉強をしている方が好きだった。
というのも理由はさまざまである。
色が白い故、あまり外で遊ぶと腫れてしまうだとか、もともと体力がないとか、書物を読んでいる方が楽しいとか……
しかし一番の理由は虐められてしまうから。
刻使いの力故、気味悪がられてしまう。
しかしそんな時に助けてくれたのは、侍従長の怜禎だった。
彼は、いつも助けてくれて優しくしてくれる怜禎が大好きだった。
それは成長するにつれて、母親のような存在ではなく、一人の女性としてみるようになった。
そんな初恋もついに破れてしまう。初恋の相手には好きな男性がいたからだ。
しかもその男性、憎き姉の侍従長の秀叡なのである。
昔から優秀で完璧だと思い込んでいた唯晏は深く嘆いた。「こんな完璧な自分よりも欠陥したあの男が好きなのか」と。
そんな純粋な初恋はいつしか愛した人を恨むほどの強い憎愛へと姿を変えていったのである。
唯晏は決して自分に非があることを認めなかった。なぜなら完璧だと「思い込んでいる」から。
しかし彼の心には認めるという以上にストレスがかかっていた。
というか、もうすでに認めているのに彼のプライドがそれを許していないのだ。
深層心理で自分が不完全であると認めていることに加え、積み重なるストレスの結果、「唯黯」という完全なる人格を無意識のうちに作り上げたのである。
自分に非がないと思い相手を攻め続けた唯晏。
いつしか好きだった人へも責めるように。
怜禎に対し何度も暴力乱暴を重ねた。秀叡が気付いた怜禎の痣はこのことである。
そして異変に気付いた秀叡が目撃し、重傷を負ったのもこれのせいである。
他の神使に手を出したのはまずかった故、母親である藜にこっぴどく叱られた唯晏。
何日もの説得の末怜禎のことをあきらめて姉とも仲良くするようにした唯晏。
傍から見れば更生したと思われた。が、そう簡単に折れる唯晏ではなかった。
まだ怜禎が好きだった。まだみんなを恨んでいた。まだ完全でいたかった。
そんな気持ちを抱きながら、それでも彼の中にあるほんの一握りの正義が姉を助け、そのほんの一握りのせいで一生憎悪にまかれながら死んでいったのである。