2014年12月09日 第63話「鎖」までの仮説

 人間の絶滅した世界で、人間を復活させるだけでなく「理想の人間」を創造するため、何者かが動植物を元に人間のひな型として作った人造人間に人間の歴史を再現させる実験場「壁」。ただし人造人間だけではなく、若干の人間も混じっている。

 

 壁の中の人造人間は、常に「月」から監視されている。月の基地は人間の遺伝子から作られた亜人と、労働用に動物から作られた獣人によって運営されていた。彼らは未来に絶滅した人間を復活させるよう、人間の遺伝子と記憶を保存し、新しい人間となる生物の開発と研究を命令されていた。壁はそのための実験場であり、実験生物を発生・育成するためのジェネレイター兼保育器である。

 

 壁の中の人造人間は代を重ねるごとに改良されるが、悪しき進化をしたと判断されると巨人にされて壁の外に廃棄される。そのため巨人には夜間活動能力などの性能差があり、古い巨人ほど性能が低く、新しい巨人ほど性能が高い。

 

 失敗作の廃棄後、人造人間は再び生産されるが、その時にどの段階から人間の歴史を再スタートさせるかという人造人間再生の基準が必要となる。「悪しき進化をしていない最後の状態」を保存(セーブ)して再生の基準とするため、一部の人造人間は廃棄されずに記憶だけ改竄されて壁内に残される。この”人の形をしたセーブポイント”を「座標」と呼ぶ。

 

 人造人間にはすべてモデルが存在し、人造人間はそのコピーである。そのため、再生時のメンバーは常に同じである。元の遺伝子のバリエーションが限られているため、その子孫は親と非常によく似た容姿になる。一種のクローンと言ってよい。そのモデルは壁の中に埋まっている巨人たちである。

 

 実験がすべて終了した後、「座標」は「理想の人間」の基準にも使われる。つまり、座標は人類再生実験の全データであると同時に、理想の人間のデザインを決定する事ができる。言い換えれば「座標そのもの」あるいは「座標が理想と判断した人物」が、次の世界を支配する新人間のモデルになるのである。全ての人類の祖先と言われる”アフリカのイブ”のように。言い方を変えれば、座標を手に入れた者が次の世界をデザインする権利を手にする事が出来るのである。座標は未来の世界そのものだと言える。

 

 座標は複数存在する。様々な場所や階級でデータを収集する必要があるからだ。座標の中にはグループを作って住む者もいた。彼らは危機的状況になった場合、全員が死亡する事は絶対に避け、必ず座標のうちの誰かを生き延びさせる事を掟とした。

 

 何度目かの廃棄を経て、協力者の手助けにより自分たちが人類再生計画の実験動物に過ぎないと気づいた壁内の一部の人造人間は、廃棄されないために悪しき進化の兆候を隠蔽するようになった。彼らは「王政」を名乗り、捏造された歴史を他の人造人間に教え込むと同時に、強力な殺傷兵器や飛行する道具を開発したり、真実の歴史に気づいた人造人間を次々に粛清していった。

 

 しかし、人造人間の中には、月の内部調査班が隠れていた。もともと調査班こそが壁の中の統治者であり、王にあたる存在だった。彼らは壁の中で人造人間と暮らしながら進化状況を報告するのと同時に、人造人間たちの体調管理をするのが任務だった。そのため調査班の中には代々医者を職業とする者もあり、王政によって玉座を追われた後は月との連絡を絶たれたまま潜伏を続けていた。

 

 この人間復活に反対する勢力もいた。動物から作られた人造人間たちは、動物を食べ尽して絶滅させた人間を「自分たちよりも大きな体と圧倒的な武力を持つ巨人」「生物を滅ぼした悪魔」と呼び、その悪魔の再生実験を阻止するため、壁の破壊と実験動物である人造人間の抹殺、そして実験データの破棄を計画していた。

 

 実験が始まってから二千年後。王政による壁の中の歴史再現は18世紀ヨーロッパの段階に到達していた。月の内部調査班は巨人化によって廃棄を免れ、代々自分たちの記憶を封じ込めた神経ペプチド様伝達物質を子孫に注射する事で、巨人化能力と記憶を継承していた。子孫を残す際には自分のクローンの異性体を作って結婚した。遺伝子工学によって遺伝病は克服されており、その子孫は親そっくりの容姿を持つ疑似クローンとなった。

 

 調査班の子孫グリシャは、座標を発見して保護していた。いずれは息子のエレンに任務を引き継がせなければならない。そしてエレンが調査兵団を志望していると知ったその日、グリシャは任務を伝える決心をする。二千年前から受け継がれてきた地下室の記憶をエレンに教え、記憶継承の準備をしなければならない。

 

 それはグリシャの死を意味する。なぜなら記憶の継承とは、エレンに注射をして巨人化させ、自分を食べさせる事だからだ。グリシャも親を食べて記憶を継承した。二千年間ずっと同じことを繰り返してきた。自分の代でやめるわけにはいかない。自分たちが受け継がなかったら、今までに死んだ人達の命が無駄になる。

 

 しかし、グリシャは警戒もしていた。いつか誰かが壁への攻撃を始める。その時は王政の秘匿している最強の巨人の力を奪い、エレンに継承させなければならない。そうしなければ壁の中の人造人間は全滅し、人間は復活できなくなってしまうだろう。最悪でもエレン、カルラ、ミカサのうちの誰かは生き残らなければならない。

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最終更新:2014年12月09日 23:02